(第1回)髪の毛を切りに来ていない人がいるサロンの方が面白い。
第2回
決断は流れとタイミング。覚悟はない。
ルダイ
今はトップレベルの焙煎士であるケイタさんですが、LiLo Coffee Roastersを始めるまでコーヒー屋に勤めた経験はなく、素人の状態からいきなり自家焙煎を始めたんですよね。とても思い切った決断だと思います。
(2014年7月)LiLo Coffee Roastersオープン準備中。
ホッタさん
大きなことを決める時こそ、そんなに覚悟してるわけじゃない。
美容室のLiLo in veveを始める時もそう。25歳で勤めてた大きな美容室を辞めた時には、フリーランスで美容師をしながら30歳まではふらふらするつもりやってん。ロンドンに友人がいっぱいたから、あっちでワーキングホリデーをして経験を積もうと考えていて。
ルダイ
はい。
ホッタさん
でも、技術的に劣ってる訳ではないし、センスと文化の違いを考えると、日本で美容室を開くのに海外で経験を積む必要はないのかもと。それで結局行くのを辞めた。かといって国内で自分が求めていた環境を作れている美容室もなかったから、ほなもう自分の店始めようかなと思って、堀江や心斎橋を歩き回り、いいなと思う物件が見つかったからそこで始めた。
ルダイ
堀田さんの話を聞いていると、なんでも簡単なことのように思えてしまいます。決断のノリが軽やかです。
ホッタさん
結局開業したのは26歳の時。LiLo in veveで14年以上ずっと一緒に働いているイクちゃんは、僕がフリーランスで活動していた時期に場所を借りていた美容室に勤めてて、そこを辞めるって言うから「えーほんなら、僕店やるから来る?」と誘って、一緒にLiLo in veveを始めた。
ルダイ
ひゃー。それもタイミング、縁ですね。
ホッタさん
結婚も同じで、ずっと友達だった子と、あるきっかけがあって「ほな結婚しよう」って。何かをスタートするまでは流れとタイミング。始めることに覚悟とかはないです。
ただ、決めちゃってからは、それを発展させてずっと続けていくためにすべきことを考える。美容室はイク、コーヒーはケイタと始めたから、まずは彼らがずっと働きたいと思える環境を作り上げること。結婚なら、うちの妻が一生幸せに、一緒にいられるにはどうすればいいか考えていく。
ルダイ
なるほど。
ホッタさん
始めるかどうかの前に予測を立ててリスクを計算してやっと覚悟を決める、という感じではないです。やることをパッと決めてから、作り上げていく。一度決めた後の作り込みは人よりちょっと早くて深いのかもしれないけど、分からないね。
ルダイ
あれこれ迷わず決め切ってしまって、それを現実的に発展させていくために頭をフル回転させているんですね。
ホッタさん
誰かと一緒に仕事をする上で、「この人とずっと働いていこう」と決めちゃうことがすごくプラスにはたらいている。やっぱり、いつかつながりを切る前提でいると、深く関係を築く必要も、自分を理解してもらう必要もないじゃないですか。
ルダイ
そうですね。
ホッタさん
この人とはずっと付き合っていくと決めた相手を一人、二人と増やすことによって、この人には伝わったけどこの人には分かってもらえてないなということをきちんと言語化することが必要になる。
多くのすれ違いや衝突、誤解を解決する上で、内省したり自分を伝えるための試行錯誤を我慢強く続けられるのは、「ずっと一緒に働いていきたい」という自分の中で確定した気持ちがあるからこそなんですよね。
ルダイ
なるほど…。堀田さんが大切にしていることの一つに「多様性」がありますが、多様な考えやものの見方を持った人が集まれば、当然ぶつかることも増えます。それを乗り越えて面白さを生み出すためには、相手との関係を絶対に切らないと決めてしまうことが大事なんですね。
(2016年2月)LiLo in veve 8周年。LiLo Coffee Roastersはまだオープンして1年半の頃。
ホッタさん
僕はリロの仲間になったスタッフ全員に対して、ずっと一緒にいようと思っているけど、スタッフ同士でもそう思えていればいるほどつながりが強く、物事の捉え方も変わる。強いチームにしかできない楽しいこと、新しいことがあって、それを実現するためにはただ人数が必要なのではなくて、しっかりしたつながりを築くことが一番かな。
ルダイ
なるほど。
ホッタさん
実際に僕は、この人と一緒にやっていくと決めた時点から相手と楽しくやれる方法を考え出す。考えているビジネスに当てはまる人を探してくるのではなくて、決まってからその人とどうやって世界を作っていくか考えるんやな。僕はある意味自分がなくて、イクが前の美容室を辞めるから一緒にはじめようかなと思い、ケイタがおったからコーヒーをすることに決めて、ヒロ(「餃子とリロと〇〇と」店長の伊藤博幸)がおったから餃子屋を始めて、中谷(LiLo Coffee Roasters創業前から一貫してリロのデザインを手がけるデザイナーのヨシ中谷)がおったからデザイン事務所を立ち上げた。
ルダイ
なるほど。リロコーヒーは、3店舗それぞれスタイルが全く異なります。また、この一年で、リロコーヒー以外にも餃子屋「餃子とリロと〇〇と」やコーヒー×サウナの新ブランド「COFFEESAUNNERS」、そしてデザイン事務所LiLo in veveといった、新しい事業が次々に始動しました。この動きを外から見ると「リロ、色々手を拡げてるなぁ」と思われるかと思うのですが、マーケティング目線で成功の方程式に則った事業拡大ではなく、その時々の直感や、仲間から得たワクワクに従って「これをやろう」と決めているからこそ、意外かつ面白い拡がりを見せているのですね。
(2016年4月)写真右、現在「餃子とリロと〇〇と」で腕を振るうヒロさんは、元々LiLo Coffee Roastersの常連のお客さんでした。