(聞き手:田川流大)

リロ珈琲喫茶には、心地よい空気を作り出すスペシャリストがいます。

佐野亮介さんは常に周囲に気を配り、お客様を全力で楽しませつつも

ひとつひとつの動作に宿る自然な美しさが乱れることはありません。

 

自分に与えられた役割を静かに突き詰めるその背中には、

価値観の軸となる「踊り」から得た美意識が見え隠れ。

 

自身の中に確固たる価値観を育みながら 決して自慢せず

今日も謙虚なプロフェッショナルであり続けます。

 


  

(第1回)恥と経験

(第2回)リロの接客

(第3回)いちばんは、お客様

(第4回)イギリスの記憶とスコーン

(第5回)正解はない、間違いもない。

(最終回)引き算の美意識

 


 

 

 

 

第6回
引き算の美意識

 

ルダイ

サノさんのスコーン、楽しみです!!

 

サノ

いやだ、緊張する…(笑)

 

ルダイ

何かを人前に出すって、プレッシャーですよね。

 

サノ

服装やダンス以外で初めての自己表現なので。恐怖です(笑)

 

ルダイ

いやぁ、でも感覚の鋭いサノさんが何を表現するのかというのは、すごく興味があります。

 

サノ

でも本当にシンプルなんですけどね。ある意味こだわりが無いというか。

 

ルダイ

シンプル。

 

サノ

そうそう、小麦粉の甘みが感じられる、そのままで美味しいスコーンを作りたいなぁというだけだけだから。

 

ルダイ

だけだけなんですね…。

ただ、一見シンプルに見える境地に到達する為には、たくさん試したり、繰り返すことが必要ですもんね。

 

サノ

うーん。

 

ルダイ

「自然なこと」を人間が表現する為には、まず考えて考えて、がむしゃらに頑張る段階を経るしかないと感じていて。

 

サノ

うんうん。

 

ルダイ

「ただ適当に引いてみた」だけでは良いものは作れなくて、自然でいて、かつ優れた表現をする為には、バリバリに努力してセンスを身につけることが大事なのかなぁと。

 

サノ

僕の「引き算」「シンプル」の感覚は、ダンスで培ったものですね。15、6年ひたすらやっているダンスがべースにあって、引き算が一番かっこいいというセンスが後々いろんなことに当てはまったというか。

 

ルダイ

ふ〜ん。

 

サノ

ガチャガチャ動くよりも、歩いてくるだけで「あ、もう勝てないわ」みたいな。一歩歩いただけで見た人が「もう、かっこいいです」となるような動きに憧れています。

 

ルダイ

ほぉ〜。

 

サノ

例えばギターのソロパートをジャーンジャカジャカって弾くんじゃなくて、ソロに入った途端「……テーン、テトーン…」みたいな(笑)

 

ルダイ

あぁ〜なるほど(笑)

 

サノ

一発目の音でゾワゾワ〜って鳥肌が立つような、ああいうシンプルさに憧れている。だから「引き算」が好きだし、引き算にはとてつもないセンスが必要じゃないですか。

 

ルダイ

うんうん。

 

サノ

ありとあらゆることを試してデータや経験を蓄積した上で、シンプルに仕上がっているという。そういうところにずっと憧れてダンスをしてきましたね。

 

ルダイ

なるほど〜。シンプルさに惹かれる感性は元々持っていたんですね。

 

サノ

はい、それは間違いなくそうです。そういう面では早熟だったのかもしれません。ダンスを始めた17、18の頃から、テクニックより雰囲気の方がかっこいい、と思ってましたね。佇まいや、一挙手一投足で「勝てない」と思わせるようになりたいと思ってた。

 

ルダイ

あぁ。でもそっちは、すごくわかりづらい道ですよね。

 

サノ

そうそうそう。

 

 

ルダイ

大変ですね。技術は習得したことがわかりやすいですが、「佇まい」が成熟したかどうかについては評価が難しい。

 

サノ

そうそう。ダンスバトルとなったら派手なことしなくちゃいけないから、わかりやすいテクニックを使った派手な自分になるんですね。それを見たみんなはすごいって言ってくれますが、自分では「ださい」と思っていて。

 

ルダイ

ほうほう。

 

サノ

だからもしソロショーをやれと言われたら、「何やってんのあの人」って言われるような、めちゃくちゃ地味で、ただただ歩いて目線だけで魅せようみたいなことをやると思う。僕はそういうことばかりやっている人でした。

 

ルダイ

ふぅーん。

 

サノ

その感性がコーヒーにも落とし込まれているし、服装もごちゃごちゃするより引き算がいいなぁと。だからスコーンも結局そうなってきたのかな、と思います。

全部踊りで培ってきたものですね、そこに関しては。

 

ルダイ

なるほど〜。サノさんが大事にされているいくつかの価値観は、全てダンスを軸にしたものだったんですね。

僕はまだ、色々な価値観を情報として手に入れたり、頭で思考して「そうだよなぁ」と感じている段階なのですが、サノさんはそういった感覚を身体を通して自分のものにする努力をされていると思います。僕も、そうありたいと強く思います。

 

サノ

ちょっと、全然難しくてわかんない。

 

ルダイ

あぁ!ちょっと(笑)

 

サノ

難しいんだもん言ってること(笑)

 

ルダイ

その、知識として「シンプルがいい」とインプットするのと、自分で行動した経験から気づきを得るのとでは、自分の芯になるときの強さが天地の差だな、ということです。僕はまだまだ、知識に頼った芯で脆いなぁと実感していて。

 

サノ

だって若いんだもん!そりゃそうよ。僕も15、6年ダンスをやってやっと「かっこよさ」を何となくわかってきたくらいなんだから。そんな早く…やめてよ(笑)

 

ルダイ

あははは。そうですね。

 

サノ

そうよ、もっと苦労してよ。色々恥かいてよ(笑)。

めちゃくちゃ恥かいてきたから僕は。恥をかいてどん底までへこんだところで一気に学べたからね。

 

ルダイ

ほぁー。やっぱり説得力

 

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ルダイ

サノさんのお話を聞いていると、その時その時でいろんな方に、深く可愛がってもらっているのが印象的でした。

 

サノ

そうですねぇ。

 

ルダイ

可愛がられる魅力があるんでしょうね。

 

サノ

何でしょうね。すごく、誠実でありたいのかな。

 

ルダイ

うんうん。

 

サノ

誠実でありたい、ということはずっと思っていて。感謝の気持ちを常に伝えなきゃ、伝わってたらいいな、と思う。

 

ルダイ

なるほど。

 

サノ

口ばっかり達者だったからかな?(笑)

でもそういうことで可愛がってもらえたのかもしれないなぁ。

 

ルダイ

自分のことを、特に褒められるべきことは自ら語ろうとしないサノさん。大切にしている価値観や、その根っことなる経験についてたくさんお聞かせいただけて、とてもいい時間でした。ありがとうございます!

 

 

(インタビューは以上です。ここまでお読みくださった皆さま、ありがとうございました!) 

 

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