リロ珈琲喫茶には、心地よい空気を作り出すスペシャリストがいます。
佐野亮介さんは常に周囲に気を配り、お客様を全力で楽しませつつも
ひとつひとつの動作に宿る自然な美しさが乱れることはありません。
自分に与えられた役割を静かに突き詰めるその背中には、
価値観の軸となる「踊り」から得た美意識が見え隠れ。
自身の中に確固たる価値観を育みながら 決して自慢せず
今日も謙虚なプロフェッショナルであり続けます。
第3回
いちばんは、お客様
ーーーーーーーーー
サノ
結局一番大事なことは「お客様」なんだなって、自分の中ですとんと落ちたんです。
ルダイ
はい。
サノ
コーヒーの勉強をしたいと思ってリロに来たけれど、言葉を選ばずに言うと「後でいいや」と思って。
ルダイ
ほうほう。
サノ
ヒロナさんを始め、キョウスケさんやタクミさんはお客様に喜んでもらう為だけに、キッチンの中で日々研究して、一回一回の抽出に魂を込めていて。僕は隣で、そこで気付いた事や感じた事を共有してもらう。それだけで満足だなと。
逆に、そこで3人が頑張ってくれている分、僕がみんなを演出しようと思ったんです。
ルダイ
うんうん。
サノ
「かっこいいでしょ!」「クールに見えるけど、実はお客様のためにピュアに頑張ってるんですよ!」
ルダイ
うんうん。
サノ
僕が昔思い描いていたような「完璧でクールなバリスタ」というイメージをいい具合にぶち壊しながら、「ただただお客様に楽しんで頂きたくて、面白いキャラクターを演じたり、可笑しい人になってみたり。この3人はそういう事にも徹する事ができるんです。そんなバリスタかっこいいじゃないですか」ということを言いたい。それだけなんですよね。
ルダイ
その役回りのバリスタ、なかなかいないですよね。
サノ
いないか!
ルダイ
はい、「カウンターの中のかっこいいバリスタ」ばかりですもん。
サノ
うーんそうか。たしかにそれを謳っている人はなかなかいないですね(笑)
僕はできることが少ないので。身の程を知っているんです。
ルダイ
ほう…。
サノ
それに他のバリスタがコーヒーを追求してくれている所から学ぶだけで、僕の思いは解決できていますから。
ルダイ
なるほど。
サノ
やっぱり8年も家で一人でごにょごにょコーヒーと向き合っていると、頭がおかしくなってきます。
ルダイ
(笑)。どうなるんですか?
サノ
自分が作ったコーヒーが全部美味しく感じないんです。だから意見が欲しくなるんですよね。
ルダイ
はぁはぁ、なるほど。
サノ
だからそんな人がここに来て初めて自分が淹れたコーヒーについて話してくれることが、僕にとっては何よりも贅沢な時間で。
ルダイ
はい。
サノ
すごく幸せなんです。だから本当に、脱サラして胃に穴が開くくらいドキドキしながら人生を変えた甲斐があったなぁと感じますね。
ルダイ
今は、自分のコーヒーを美味しいと感じられますか?
サノ
前よりは思うようになったかな。なぜなら、バキバキにすごいリロのバリスタたちが「あ、美味しいですよ」「こうするともっと良くなるかもしれないですね」とか言ってくれて。
ルダイ
うんうん。
サノ
ああですねこうですね、と言ってくれるこの時間があるから、やっと「美味しく淹れられる」と思うようになったかな。
ルダイ
ほほう。
サノ
7、8年ずっと亡霊のようにいたサノの幽霊に言ってあげたいですね、「成仏していいよ」って。
ルダイ
ははは、「もういいんだよ」って(笑)
サノ
「よかったね、浮かばれたね」って。「幸せな未来が待ってるよ」って過去のサノにも言ってあげたい(笑)
ルダイ
ああ〜。
サノ
すごく病んでいたから。コーヒーで食べていきたいと思っているのに美味しいコーヒーが淹れられない自分に対して、失望していました。だけど諦められないし。だから自分のコーヒーにみんなが反応してくれる今の状況が「すげえな今」って毎回感じていて。
ルダイ
はい。
サノ
本当に幸せな瞬間を毎日感じてます。毎日。
(第4回「イギリスの記憶とスコーン」へつづきます)