(第1回)未完成のまま進む

(第2回)巻き込まれたい。

(第3回)焙煎機とリロの味

(第4回)あくまで目的は「人」に向いている。

(第5回)焙煎士として

(最終回)深く深く、もっと拡げる。

 


 

 

 

第1回
未完成のまま進む

 

ケイタ

変わりましたねぇ、でも。

 

ルダイ

そうですよね。最初はケイタさん一人でしたから、本当に…抽出しながら焙煎をして、ですもんね。

 

ケイタ

そう! 抽出して焙煎して、レジ、クッキー、それからホットサンドを焼いて。

 

ルダイ

ホットサンドにも凝っていたらしいですね(笑)。ベシャメルソースを使ったりして。

 

ケイタ

せやな、それで手は常に動かしながらお客さんともお話して…。

 

ルダイ

どうやって営業できていたのか想像もつかないです。

 

ケイタ

今考えたら無茶苦茶なことをやってたと思う。決してそのやり方が良いと言うわけではないんやけどね。

 

ルダイ

はい。

 

ケイタ

あ、もう録ってるんや(笑)。

 

ルダイ

はい(笑)、よろしくお願いします!

 

ケイタ

お願いします!

話戻るけど、その「未完成からスタートする」というのがテーマとしてあったな、最初から。

 

ルダイ

そうなんですね。

 

ケイタ

そうそう。堀田ともずっと言ってることなんやけど、常々変わっていかなあかんので。

 

ルダイ

変化と仲良く、ですね。

 

ケイタ

最初に全てを固定するのはやめて、「未完成の柔らかい状態でスタートして、その都度状況に適応させて変わりながら作っていこか」みたいなところから。自分たちの考え方も変わるかもしれないし。

 

ルダイ

なるほど。

 

ケイタ

未完成だから、実際にやる方は不安でしかないけどね。

 

ルダイ

そうですよね(笑)。

だって、珈琲屋さんで修行を積んでいたわけでもないですもんね。

 

ケイタ

そうそうそう。本当にもう、コーヒーは趣味でやってたくらいの状況からの始まりなので。背負うプレッシャーは凄かった。

Mビル(LiLo Coffee Roasters、LiLo in veveが入っているビル)の1階は「死に場所」だったから、もうコケられへんというのもあって。

 

ルダイ

現在LCRがあるMビルの1階は、LCRができるまでは様々な店が入っては消える「商売が長続きしない物件」だったらしいですね。

 

ケイタ

そう、だからこそ、住人の皆さんからのプレッシャーが(笑)。

 

ルダイ

コーヒー屋を始めるにあたって、最初は焙煎豆を他のロースターさんから仕入れるという選択肢もあったかと想いますが、いきなり自家焙煎の形態をとったことにも理由があったんでしょうか?

 

ケイタ

自分の作ったものに責任を持ちたいという想いがすごくあった。元々、堀田がLiLo in veveでカットに来られるお客様にコーヒーを提供してたんやけど。

 

ルダイ

はい。堀田さんがドリップしていたんですよね。

 

ケイタ

そうそう。その時使うコーヒー豆は最初、よその焙煎所さんから仕入れていたんよね。「こういう味わいにしてください」とオーダーをして。

ただ、仕入れる回によって焙煎度合いが変わっていたり、思っている味に焙煎されていない時があって。

 

ルダイ

ほうほう。

 

ケイタ

「作りたい味にならない原因に自分たちで対処できない」というところにジレンマを感じてた。だから自家焙煎をするということは何よりも最初に決めていたかな。

 

ルダイ

そうなんですね。

 

ケイタ

自分たちで豆の美味しさに責任を持つという意味では、この判断はすごくよかったと思う。めちゃめちゃ言われたけどね、最初は。

 

 

ルダイ

言われた?

 

ケイタ

美味しくない、クソまずいって。

 

ルダイ

ええ…!そんなにですか。

 

ケイタ

色んな人に言われた。それに対して、謝るにしても何か伝えるにしても、ちゃんと自分が当事者として責任を持てるのは自家焙煎をしていればこそだから。それはよかったと思う。

 

ルダイ

スペシャルティコーヒーは、リロを始める以前から個人的に飲まれたりしていたんですか?

 

ケイタ

そうそう、それも結構早い段階じゃないかな。20代の後半くらいのときにはじめて行った喫茶店で飲んだコーヒーがめっちゃ美味しくて、聞いてみたらスペシャルティコーヒーだったという。

よくある話なんだけど。

 

ルダイ

なるほど。「LCRを始めた当初、アメリカ村にはスペシャルティコーヒーが全く浸透しておらず大変だった」という話を『焙煎士中村圭太の究極の一杯』で話されていたかと思うのですが、リロでは店頭で一人一人に地道にコーヒーを伝えていかれたんですか?

 

ケイタ

そうそう。むしろ、それがしたかった。

LiLo in veveはヘアカットサロンで、美容師の接客スタイルは1対1じゃないですか。

 

ルダイ

はい。

 

ケイタ

1対1で伝えられることはすごく大きいというのは堀田も感じていて、その延長でコーヒーも1対1の伝え方ができればいいなというところから始まっているからね。コーヒーをマンツーマンで伝えていくことは僕たちの中で優先順位が高くて、LCRもキュッと狭くてその伝え方がしやすい設計になっているし、今でもそういった伝え方をしたいなと思ってる。

 

ルダイ

なるほど。

 

ケイタ

そう、コツコツやっていったね。でも大変なのは最初だけ。なんていうか「複利」的に伝わっていくからね。

 

ルダイ

複利。加速度的に拡散していくということでしょうか?

 

ケイタ

目の前のお客様に丁寧に伝えることができれば、その人がまた複数人にリロのことを広めてくださる。このことは最初から実感していたので、お客さんと腹を割って話す、きちんと伝え切るということは意識していたかな。

 

ルダイ

ほう〜。

 

ケイタ

今でこそ取り扱うコーヒー豆は最高品質のものが保証されているけれど、駆け出しの頃はお店の基盤、品質も経験もまだまだだった。その中で何を最優先にしたかというと、まずは僕たちのことを知ってもらって信用してもらうこと。

 

ルダイ

ふんふん。

 

ケイタ

だから、僕の人柄も含めて伝えていくことは大切にしたかな。

 

ルダイ

長くリロコーヒーに来てくださっているお客様の中には、コーヒーを飲みに、というよりもケイタさんと話をしに来てくださっている方が多いですもんね。

 

ケイタ

もちろんコーヒーが美味しいということは大前提としてなければならないことなんだけど、それに加えて自分の持っている明るいキャラクターや面白い伝え方という武器を最大限に使ったという感じかな。

 

ルダイ

なるほど。

 

ケイタ

でもそれは「諸刃の剣」だなということも感じていて。

  

 

(第2回「巻き込まれたい。へつづきます)

 

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