(聞き手:田川流大)
リロ珈琲喫茶には日夜、様々なお客様がいらっしゃいます。
その中には悩みを抱えた人もちらほら。
彼らの相談に親身に耳を傾け、力強い言葉と共に送り出すのは喫茶の店長、山本紘奈さん。
綺麗なピンクヘアがトレードマークのヒロナさんは、
面倒見のいい喫茶のおかん的な存在です。
対象を独特の感性で見つめ、一般的には「欠点」とされるあらゆる物事に惜しみない愛情を注ぐヒロナさんは、
リロ珈琲喫茶に懐の深い世界観を生み出す核となっています。
壁に直面するたびに厚みを増す表現と、ずっと変わらない根っこの感性。
「やりたいことだらけだからね」
感情のこもった言葉を紡ぐその姿からは、コーヒーへの愛と
喫茶をもっと面白くしたいというエネルギーが溢れ出ていました。
第5回
「むっつりヒロナ」の根っこ
ヒロナ
だからさっき流大くんが言ったピンポイントに集中して「いい!」と思ってるその感覚は自分ではもうピンときちゃうからなんでそこに惹かれたかは分からない。
ルダイ
ふんふん。コーヒー以外ではあるんですか、そういう偏愛は。
ヒロナ
いっぱいある。
ルダイ
音楽とか?
ヒロナ
うん。結構はっきりしてる、好き嫌いは。
ルダイ
へぇ〜。でもその好みは既存のジャンルでは括れないものだったりするんですか?
ヒロナ
そうそうそう。でもなんでピンときているのかは知りたいから、好きなものを集めてその共通点を探ったりしてる。でもやっぱりなんでピンとくるのかは分かってない、先に感情が動いちゃうから。
ルダイ
「綺麗」とか、「面白い」「楽しい」のようなポジティブな感情があるじゃないですか。ピンとくるものは、ヒロナさんのどの感性に引っかかっているんでしょう。僕は「美しい」によく引っかかるんですが。
ヒロナ
…結構ネガティブだと思う。
ルダイ
ほぇー!
ヒロナ
…。
ルダイ
…。
ヒロナ
…変態、かな(笑)
ルダイ
変態(笑)
ヒロナ
欲求。
ルダイ
欲求?ヒロナさんの?
ヒロナ
誰かの。誰かの変態的な欲求を見た時に「あっ」ってなるかも。
ルダイ
えぇ、人なんですね。何かが蠢いているんですか?
ヒロナ
そうそう、やっぱりむっつりだから。
だって普段思っている、誰にも言いたくない欲求を、一個壁を乗り越えてもう出しちゃった人って、「やりおったなあ」って思うよね(笑)
ルダイ
あはは。うわぁ。
ヒロナ
「嫌われてもいいや」というくらいの欲求が出たときに「あぁ出したなぁ」って思う。
だからアートも好きなのかな。
ルダイ
表現されたものに惹かれるんですね。
ヒロナ
そう、綺麗なものはあんまり好きじゃないかも。
ルダイ
へぇー面白い。音楽もそうなんですか?
ヒロナ
そうそう。私テクノが好きで、ハウスは全然ピンとこないの。
ルダイ
ほう。
ヒロナ
ほとんど一緒じゃん。なのにテクノ寄りなのがなんでなんやろうと思っていたら、この前ラジオで誰かが言ってたのが。
ルダイ
はい。
ヒロナ
ファッション関係の人が言ってたんだけど、「誰かに見せたいファッションをしている人と自分が満足するファッションをしている人は大きく違うよね。それってハウスとテクノに似てるよね」って話してて。
ルダイ
え〜!
ヒロナ
そっか!と思って。自分が満足する音楽を作っているのがテクノで、誰かに聴かせたい音を出しているのがハウスだってしっかり分かったの。めっちゃ納得して。
ルダイ
自分のため、か…。
ヒロナ
そうそう。だから欲求を満たしている、欲求が溢れ出ちゃっている音楽がやっぱり私は好きだったんだと。誰かの欲求を聴きに行ってる。気持ち悪いよね(笑)
ルダイ
へえ〜。ヒロナさんにもそういう欲求あるんですか?自分だけが好きなものを表現したいという。
ヒロナ
表現したいとは思っていない。それはエゴだし、それで誰かを喜ばせたいと思ったら、ハウスになっちゃう。だから、テクノでありたい(笑)
すごいこと言ってるね。
ルダイ
難しいですね、自分のためだけど…。
ヒロナ
自分のためにやってることが誰かが共感してくれればそれでいいっていうだけです。
ルダイ
「ただ置いておく」という感じですね。それは意識しているんですか?
ヒロナ
意識はしていないかな。色々考えたときに「自分が」気持ちいいことを常にしているんだなと分かった。
ルダイ
「自分はこれが好き」というエネルギーはみんな同じだけ持っているわけではないと思います。ヒロナさんはそのエネルギー量が凄まじいですね。
ヒロナ
まじで(笑)
そうだなあ。でも今までそういう人じゃなかったの。むしろ逆で、周りに気を遣って何もできない人だったんだけど。そういう自分が嫌いで。自分の欲求を満たしてる人たちに憧れてたし、でもそうなれない自分もいた。
ルダイ
うんうん。
ヒロナ
その性格がガラッと、27歳の時に変わったんだよね。
ルダイ
明確!(笑)
(第6回「27歳とアドラー」へつづきます)