(聞き手:田川流大)

リロ珈琲喫茶には、心地よい空気を作り出すスペシャリストがいます。

佐野亮介さんは常に周囲に気を配り、お客様を全力で楽しませつつも

ひとつひとつの動作に宿る自然な美しさが乱れることはありません。

 

自分に与えられた役割を静かに突き詰めるその背中には、

価値観の軸となる「踊り」から得た美意識が見え隠れ。

 

自身の中に確固たる価値観を育みながら 決して自慢せず

今日も謙虚なプロフェッショナルであり続けます。

 


 

(第1回)恥と経験

(第2回)リロの接客

(第3回)いちばんは、お客様

(第4回)イギリスの記憶とスコーン

(第5回)正解はない、間違いもない。

(最終回)引き算の美意識

 


 

 

 

 

第1回
恥と経験

ルダイ

サノさんがコーヒー業界で働き始めたのは、リロが最初だったんでしょうか?

 

サノ

初めてじゃないですよ。静岡で人気のカフェで3ヶ月だけお世話になって、そこであまりにも使えず、クビになりました。

 

ルダイ

うえぇ!

 

サノ

はい。

 

ルダイ

それはリロにくる直前のことですか?

 

サノ

いや、直前ではないです。経緯をかいつまんでお話ししますね。

まず、僕は17、8歳くらいの頃からずっと踊りを続けているのですが。 

 

ルダイ

はい。サノさんの踊りは素人目に見ても、めちゃくちゃかっこいいです。

 

(イギリスにて参加したイベントの映像。左側がサノさん) 

 

サノ

26歳くらいの時に、ダンスでというか、踊りの為に筋肉をつけようと思って働いていた雑貨店の工場で、業務が大変すぎて腰を痛めてしまったんです。

 

ルダイ

なるほど。

 

サノ

それから母の勧めでイギリスに行ったのですが…。

 

ルダイ

イギリス??

 

サノ

お姉ちゃんがイギリスで会社を起こしていたので、そのつてでイギリスに行きました。その頃からお洒落なカフェで過ごすのは好きでしたね。ダンス業界では周りから「スイーツ王子」とかいじられていたんですが(笑)

 

ルダイ

なるほど(笑)。コーヒーだけというよりも、飲み物があってゆっくりできる空間に惹かれていたんですね。

 

サノ

そうですね、イギリスに行って「素敵な空間でお茶するのがいいなぁ、飲食店で働きたいなぁ」と思っていたんですよね。そういうことを帰ってきて周りに話していたら、さっき言った静岡のカフェのお兄さんが「うちで働く?」と言ってくださって。

 

ルダイ

へえ。

 

サノ

そんなご縁があって働かせてもらうことになったのですが、僕の働きぶりがあまりにも悪く。それで「お前と遊ぶのはいいけど働くのは無理だ」と。

 

ルダイ

おぉ…。

 

サノ

あの頃は、静岡のそのお店で働くことに対して、すごくドキドキしちゃっていたなぁ。

 

ルダイ

憧れが強すぎて、ですか?

 

サノ

そう、そこは街のおしゃれな人たちが集まるようなお店だったんですね。僕は静岡から離れた清水というところに住んでいたんですが、街イチバンおしゃれな人の集まるお店に田舎っぺの僕が入ってしまって「どうしようどうしよう」とドキドキしていました。

 

ルダイ

はい。

 

サノ

自分らしくいられればよかったんですがそうなることもできず、ノイローゼのような状態になってしまって。ろくに働けず…。

 

ルダイ

うわぁ…。

 

サノ

それでもう、恥ずかしいし、何より情けないし。ダンスをずっと頑張ってきて天狗になっていた鼻をへし折られました。ダンスだけでいい気になっていたけれど、一般世界では本当に俺ポンコツなんだなと、そこで思い知って。

 

ルダイ

はい。

 

サノ

このまま終わったらだめだと思い、清水に帰って地元の飲食店で働き始めたんです。

するとすぐに先輩から声をかけていただいて、静岡のスムージー屋で働き始めました。飲食店で働いて、お客様に喜んでもらう嬉しさ、お金を頂くありがたさを感じたのはそこが初めてだったかな。27歳くらいの時。

 

ルダイ

それからは、しばらくそのスムージー屋さんで働いていたんですか?

 

サノ

そのお店で店長をやらせてもらった後、スムージー関連でご縁のあった他の会社に移籍して、愛知や京都で新店の立ち上げと店長を務めました。

 

ルダイ

おお〜すごいですね。

 

サノ

京都の新店舗で一年ほど働いた頃に「やっぱりコーヒーをやりたい」と思い、浅煎りコーヒーを学びに京都のWeekenders Coffeeさんに通ったりしました。

その後大阪の別の飲食店に転職したんだけど、結局踏ん切りをつけてそこも辞めて、本格的にコーヒー屋さんを探し始めたっていう感じかな。

 

ルダイ

コーヒー屋をやりたいと強く思ったのは京都に来てからですか?

 

サノ

いや、その想いはずっと持っていました。7、8年ひたすら一人で家でネルドリップなどをしながら、いろんな喫茶店やカフェを巡って。お金はほとんどそこで遣っていたかな。

 

ルダイ

ひゃ〜! もう一度ダンスをメインにやろう、とは思わなかったですか?

 

サノ

あくまでダンスは続けながらですね。というか、そもそもダンスを一番やりたくて、そこに「コーヒーもやりたい」がついてきた感じです。

 

ルダイ

あぁ〜なるほど。

 

サノ

ただそこで悩んでいたのが、特性としてダンスもコーヒーも突き詰める「職人技」なんですよね。2つを同時に追うのは無理だと思っていたので、コーヒーの道になかなか進めなかったんです。

 

ルダイ

ほうほう。

 

サノ

そんな中、しがない本屋さんで内容の薄い占い本みたいな本を読んでいたら、自分の項目に「大丈夫。器用にやっていける」と書かれていて。そこでパッと考えが切り替わったんですよ。

 

ルダイ

えぇ、占い本でですか!(笑)

 

 

第2回「リロの接客」へつづきます)

 

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