第3回
好み / 自己表現
ルダイ
ネルドリップに話を戻します。
サノさんがそこまでネルに傾倒しているということは、ネルでしか出ない味、があるんでしょうか?
サノ
あると思います。ありますって言い切れよという話ですが(笑)これが正直な返答ですね。
悪く言うと、すごく分厚い防弾ガラスに覆われているような味わいなんです。人によっては、ネルのコーヒーを「全然コーヒーの繊細な声が聞こえない」と感じてしまうかもしれません。
でも、僕の性格にそれが合っているんですよね。昔から喧嘩が嫌いで「まぁまぁみんな仲良くしようよ」という性格だったから。
ツンケンしないようにどんな豆も丸く収めてくれるネルの味わいが合っているんです。
ルダイ
なるほど。
サノ
言い換えると、圧倒的な丸みです。僕にとってネルドリップの親戚のような存在がサイフォンなのですが、サイフォンさんは高温でサクッと抽出する軽やかで華やかな丸み。ネルドリップはどっしり安定感があって安心できる丸み。
ルダイ
ネルは豆の個性を消しているとも言えるし、鋭い角をつるっと丸くしているとも言えますね。例えばスペシャルティコーヒーのコンペティションの採点基準では良い評価は与えにくいけれど、、好みですもんね。
サノ
そうそうそう、好みなんです。安心して飲めるコーヒーが好きなんです。ハラハラしたくないんです(笑)
僕が好きな味わいを好きと言ってくれる人が楽しんでくれたら嬉しいです。
ルダイ
それこそ、繰り返しになりますが、好きなものを真っ直ぐに表現することが、サノさんの自己表現なんですね。
サノ
そうだね。それに、間違いは一つもない。だから開き直って自己表現できるようになりました。
ルダイ
今は浅煎りをメインでネルドリップしているんですか?
サノ
はい。僕は浅煎り、中煎りの味わいが好きなのでそこを研究しています。
だけど「浅煎りしか淹れません!」みたいなとがったことをしたいわけではなくて、深煎りも定番として自分のものにしておきたいと思っています。基礎ができて初めて応用に進めるので。
ルダイ
なるほど。
サノ
その中で、自分が好きな甘みたっぷりの深煎り、フルーティな深煎りをリロコーヒーのお豆だったら作れると思うので、その部分をネルで美味しく表現できるよう目指していきたいですね。
ルダイ
時間をかけて、サノさんらしい味わいがじっくり成熟していくのが楽しみですね。
サノ
ネルドリップはやりたいこと、というより使命になっています。楽しんでいきたいです。
(インタビューは以上です。ここまでお読みくださった皆さま、ありがとうございました!)