昨年のLiLo Coffee Roasters8周年イベントで、僕はリロコーヒーが改めて好きになりました。一年でいちばんコーヒー熱が高まるこの期間、僕が堀田社長から直々におおせつかった任務は、「3日間連続でローストビーフを焼くこと」でした。堀田社長はときどき、耳を疑うようなことをおっしゃいます(いい意味で。いい意味です)。
ヘッドロースターの中村圭太がLiLo Coffee Roastersの歴史を語る、完全予約制のトークショー、ラスト15分。リロのコーヒーを焙煎している歴代の〈直火焙煎機〉と〈完全熱風焙煎機〉の熱源の違いをすこし説明するため、そのためだけに肉屋に通い牛もも肉を仕入れ、コンベクションオーブンでローストビーフを低温で焼き、会場に七輪を持ち込んで直火で肉を焼きました。
手の込んだイタズラのような、「真面目に伝えるだけで終わってたまるか」「なんとかおもろくしたろう」というたくらみが、LiLo Coffee Roastersにみなぎっているポップさの源泉です。
〈おもろい〉と似た意味合いで〈けったい〉という大阪弁があります。大阪人はこの二つを明確に区別しているのだそうです*³ 。〈おもろいヤツ〉は、意識して面白いことを言い、それが本当に笑える。対して〈けったいなヤツ〉は、普通にしていても言動がなんだかおかしくて笑われる。大阪人は、圧倒的に前者を好みます。「あいつけったいやなぁ」と言われても全然嬉しくないのです。むしろ侮辱されている気分になるのかも。大阪人は、周りを笑わせたい、おもろいヤツでいたいと強く思っている人が多いように感じます。そしてそれは、LiLo Coffee Roastersにも当てはまります。株式会社LiLo in veveのありかたを示したフィロソフィーが、こちら。
ひとりひとりを活かし
おもしろく在り続け
ワクワクを創造する
Life Design Company
「おもしろく在り続け」って言ってる!!
やっぱりLiLo Coffee Roastersは、根っから大阪のコーヒー屋でした。わたしたちはおもろいヤツの集まりでいなければいけません。
©gucciyou
世界各国の知識人がスピーチを披露する「TED Talk」で、今でも名講演と名高いのがデレク・シヴァーズさんの ”How to start a movement(社会運動はどうやって起こすか)” *⁴ です 。ご存じの方も、この機会にぜひもう一度。
一人で踊る男性。最初はみんな見ているだけ。一人が加わり、一緒に踊り出します。二人、三人。ある時を境に、どんどん人が集まり、最後は大きな熱狂に。
この2分ほどの動画はいろんな教訓をはらんでいますが、最初に一人で踊っていたパンツ一丁の男性が「なんかおもろい動きで楽しそうに踊っていた」ことが一つ、とても重要だと僕は思います。彼が一人で、磨き切ったキレッキレのダンスを披露していたら。もしくは、「踊りと身体性」についての持論を大声で朗々と語っていたら。一緒に踊りをたのしんでくれる2人目、3人目は現れなかったかもしれません。LiLo Coffee Roastersをここまで育ててきた歴代のバリスタたちは、面白くてわかりやすいこと、つまりポップであることの重要性をよく承知していたんですね。
©gucciyou
ポップはポピュラー(Popular)の俗語で、「大衆に人気な」という意味もあります。ポップミュージック、ポップカルチャー。シンプルな内容ほど広く伝わりやすく、マスにウケる。LiLo Coffee Roastersは、その点ポップではないと言えます。LiLo Coffee Roastersのポップさは、顔の見えない〈大衆〉には向けられていません。一人でも多くの〈あなた一人〉にコーヒーのたのしみを知ってもらうために、わたしたちはおかしな踊りをつづけています。
Small is better。わたしたちはいつも手の届く範囲を大事に、スペシャルティコーヒーで人々の生活をたのしくしてきました。幸せなことに、9年をかけて踊りつづけたLiLo Coffee Roastersには、一緒に踊ってくれるみなさんがいます。(僕も最初は外側の方で控えめに踊る一人でしたが、楽しすぎて気づけばリロのユニフォームを着ていました。リロコーヒーのスタッフには、元々お客さんだった人間が多いのです)。
2018年よりオンラインショップを開設したことで、たくさんの(ほんとうにたくさんの!)世界の方々とも出会うことができました。みなさん名ダンサー!
石油に次いで貿易額が世界第2位のコーヒーは、世界でいちばん生活に近い食べ物かもしれません。スペシャルティコーヒーも9年前と比べて浸透してきたように思いますが、日本国内の普及率はまだコーヒー全体の10%少々です。
たまに行く高級レストランも魅力的ですが、生活に身近なところから美味しいものに変える方が毎日は楽しくなる。リロコーヒーの全員がそう確信しているからこそ、わたしたちはわかりやすく面白く、スペシャルティコーヒーをたのしんでいます。
みなさんも、これからも、ポップに一緒に踊りましょう!
書いたひと:田川流大(たがわるだい)
リロコーヒーのBack Officer。オンラインショップの運営、カスタマーサポート、公式SNSの運用のほか、THISISOSAKA(大阪をもっと楽しむオリジナルブレンドと読みもの)の取材・執筆を行っています。大阪の食文化に魅せられ、大阪人をめざす長崎人。好きなコーヒーはフルーティな深煎り。
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