堀江に大学生の頃によく通った
カバン屋さんがあった。
友達に連れられて行ってから
ハマってしまったお店だ。

それまでは服や鞄を買うと言っても
雑誌の中身が全てだった。
毎月出るお決まりのファッション誌から
モデルさんが着ている服を見て
自分が欲しいものを探す。

流石にサイズが合うかは分からないので
実際に店舗には足を運ぶけれど
迷いもなく目星の服を手に取って試着し
店員さんとはほぼ会話をする事もなく
服を手に入れる。

けれど
それとは全く違った通い方をした。

初めてお店に行った日
友達は買う物が決まっていたのに
店員さんとよく喋っていた。
素材のことや
どんな風にその鞄が作られたのか
どんな機能や構造をしているのか
商品の話しをずっとしていた。

その店員さんは本当に知識が深くて
その後、何度通っても
彼の知らないことは何もないくらい
1つ1つの商品の説明をいつも丁寧にしてくれた。
完璧に、プロフェッショナルだった。
もちろん商品のこと以外も
たくさんたくさんお話しした。

今まで物を買うことに対して湧かなかった
商品を売っている人の気持ち
作っている人達の気持ちも知る事ができた。

そして商品のそれぞれに
"こんな風に使って欲しい"
"こんな風に楽しんでほしい"
そんな想いが確かに詰まって
店頭に並んでいることに
こんな大人になってから初めて気がついた。

初めて店員さんと話すのが楽しいと思った。
初めて物を買うことにちゃんとした意味を感じた。

今ではその店員さんが新天地で独立していて
昔のような機会は減ってしまったのだけれど
物持ちの悪い自分でも
20歳の時にその人から買った鞄は今でも現役だ。
24歳で買ったバックパックは
オーストラリアを一緒に旅した宝物。
今年の春に買ったトートバッグは
これから一体どんな世界を見せてくれるのだろう。

鞄と違って
コーヒーはずっと手元には
残らないかもしれないけれど
だからこそ、その一瞬を
ずっと残るものにしたいと思う。